確率論(統計学)

確率とは?

確率とは知識の度合い、あるいは、逆に、分からなさの程度と言ってもいいかもしれません。信念の度合いと言った方がいいかもしれません。下にあるのは、X線光電子分光(ESCA)装置と言って、とても役に立つ分析装置の写真(アルバム新装置参照)です。

ところが,知らない人にとっては全く役に立たないでしょう。だから,この装置が、ある問題の解決に役に立つ確率をPとすると、知っている人にとってはPが0.95ぐらいになるかもしれません。しかし、なにも知らない人にとってはPはゼロです。まさに、宝の持ち腐れです。

ある人がサイコロを振って、1の目が出せる確率だって、あなたは1/6だと言うかもしれませんが、全知全能の神様だったらなんと言うでしょうか。神様はなんでも分かるので、答えは1かゼロです。また、もし、あなたがこのサイコロを振る人が有名なばくち打ちだということを知っていれば、その確率は結構高いかもしれません(例えば1/2)。というのは、物理学の法則から考えると、初期条件や境界条件をきちんと定義することができれば、サイコロがどの目が上になって止まるか分かるはずです。分からないのは、制御できないからなのです。

この場合、確率はサイコロを振る人によって変わるのです。確率が1/6というのはサイコロの性質ではありません。振るときに全く制御できないということなのです。その人がどんなに頑張っても1つの目を他の目より多く出せないということなのです。

ここで、サイコロの目は6つあるというのは「皆知っていること」なのです(出るのは1から6までの数のうちの1つだと皆思っているでしょう)。ところが、6だけがない(3が2つとか)サイコロもあるかもしれません。また、面が6つでないサイコロだってあるかもしれません。このように条件が変わると、確率もどんどん変わるのです。

1つの例で考えてみましょう。ある製品は2つの材料を貼り合わせて作ります。ところが、あるとき、2つの材料がうまくくっつかなくなってしまったのです。工場長のAさんは、原因が材料の表面のでこぼこに違いないと思って、表面を平らにするような対策をいろいろ行ったのですが、よくなりませんでした。

そこで、知り合いのBさんのところへ相談に行ったのです。Bさんは話を聞いて、こういうときの不良の原因としては、でこぼこの他に表面の汚れもあるなと思ったのです。

つまり、Aさんは最初、でこぼこが原因だと100%(確率1)思っていたわけですが、Bさんの場合は50%(確率0.5)です(どっちとも言えないと思った)。話を詳しく聞いて、これはでこぼこが原因ではないかもしれない、表面の汚れが原因かもしれないと思うようになったのです。この段階では、Bさんの、表面よごれが原因という確率は0.8ぐらいでしょうか。

運がいいことに、Bさんは下に示すESCA装置を持っていたのです。この装置では、真空中で、試料の表面にX線を当てて、表面から出てくる電子のエネルギーと数を測って、なに(元素の種類と化学結合状態)がどのくらい表面にあるかを調べることができるのです。

すぐ調べると、案の定、材料表面には、大量の炭素が検出されました。これは表面に有機物(炭素を含む化合物)が付いていたことを示しています。ということは、材料を加工した後の洗浄がうまく行かなかったからだろうと思い、Aさんに洗浄装置をよく調べてもらいました。

そうすると、配管につまりがあって、洗う水の量が少なくなっていたことが分かりました。これを直して、ちゃんと水洗ができるようにしたら、不良もなくなったのでした。

ここで大事なことは、まず不良の可能性を洗い出すということです。片方の不良しか頭にないと、原因の発見が遅れてしまいます。もう1つは、証拠をちゃんと考慮するということです。Aさんも始めはでこぼこが原因であると思っていたのです
が、途中でどうも違う可能性がありそうだと思ったのでしょう。Bさんのところへ相談に行きました(しかし、両方の可能性を考えていたら、原因がもっと早く分かったでしょう)。一方、Bさんは2つの可能性に気づいて、さらに、Aさんの証拠と、自分の分析結果から、原因を推定できたのです。

このように確率を定義しようとすること(可能性を全部洗い出す)と、証拠が出たら、確率を変えていくということが、いろいろな問題の解決に重要なのです。これは、このような工場の問題だけでなく、日常私たちが経験する問題の解決でも同じことです。


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